企業の持続的な発展には原価管理が非常に重要だと言われています。
複雑な原価管理を効率化する原価管理システムですが、いざ導入を検討するとなると、どのシステムを選べば良いのか迷う方も多いのではないでしょうか。
今回は、原価管理の機能や、導入にあたってのポイントを解説していきます。
また、建築業特有の原価管理について説明を加え、建築業と製造業それぞれに特化したシステムを紹介します。
目次
原価管理システムとは
原価管理システムとは、原価計算、予算と実績の比較分析、損益分析などを効率的に実施できるシステムです。
正確な原価データをもとにシュミレーションが可能となり、具体的な経営判断に役立ちます。近年は、パッケージソフトのみならず、クラウド型も増えており、初期コストを抑えて導入できる製品も多くあります。
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原価管理とは
そもそも、原価管理とはどういったもので、何のために必要なのでしょうか。
原価管理システムの具体的な機能を見る前に、簡単に整理しておきたいと思います。
原価管理とは、製品やサービスの原価を管理する方法のことです。
「コストマネジメント」ともよばれ、持続的な企業の発展には不可欠なものです。
標準原価と実際にかかった原価の差異を算出して比較し、その差異が発生した原因を分析します。
さらに、その差を埋めるための手立てや、より安価に製造する方法を探ることで、具体的な利益改善につながります。
こうした作業を効率的に、正確に実施するために役立つのが、原価管理システムです。
原価管理の目的
原価管理は企業の発展に不可欠であることを確認しました。
以下では、原価管理を実施する具体的な目的についてまとめます。
主な目的は3つ挙げられます。
- コストの把握
- 利益の最大化
- リスクへの対応
コストの把握
原価管理を通して、原価の内実を分類するため、それぞれのコストが必要であるか不要であるか判断することができます。また、不要なコストがどの部分に生じているのかを分析することで、無駄をなくすことが可能になります。
利益の最大化
自社の商品やサービスの原価を知り、損益を算出することで、利益が最大となる生産量を割り出すことが可能です。
原価管理の必要性が高まった背景には、グローバル化による企業間の競争力の高まりがあると言われています。
他社よりも安く提供しながらも、質を保ち、利益を出すためには、より厳密な原価管理が必要です。
リスクへの対応
商品やサービスの提供価格が一定であっても、その原価は常に変動します。
原価管理を怠っていると、想定外の損失に見舞われる恐れがあります。
原価を常に把握しておくことで、柔軟な対応が可能となり、自社へのリスクを最小限に留めることができます。
原価管理システムのタイプ
原価管理システムのタイプは、次の3つに分類できます。
- 特定の業界向けタイプ
- プロジェクト管理向けタイプ
- 総合的なタイプ
以下では、「特定の業界向けタイプ」に当てはまる建設業における原価管理について整理します。
建設業の原価管理の特徴
建設業の原価管理の特徴は、以下の3点にまとめられます。
- 工事原価には外注費が加わる
一般的な原価要素は、材料費、労務費、経費などから構成されます。 工事原価には、こうした要素に加えて、外注費が加わります。 - 工事間接費
各現場に共通する原価であっても、工事ごとに「工事間接費」としてそれらを割り当てなければなりません。 共通する原価とは、たとえば公共工事における共通仮設費、リフォーム工事における諸経費といったものです。 - 事前原価と事後原価
原価の種類が二つに分けられます。実行予算などの事前原価、完工後の実績である事後原価です。
また、工事の規模や期間に応じて原材料費や人件費が変動します。
このようなことを留意しつつ、過不足なく管理できるシステムを選ぶ必要があります。
工事原価管理の目的
原価管理の目的は既に確認しましたが、建設業に関わる工事原価管理の目的にはどのようなものがあるでしょうか。
主に4つのポイントにまとめられます。
- 財務諸表を作成する
- 次年度事業計画を立案する
- 見積価格を算出し、工事を受注する
- 利益の最大化
4つ目は他の業界にも共通する目的ですね。
建設業向けの原価管理に関連する記事はこちら
原価管理システムの基本的な機能
これまで、原価管理の目的やその必要性について確認してきました。
企業の成長のために不可欠なことだと理解していても、実際に取り組むには多大な労力が伴います。
そこで役立つのが原価管理システムです。
実際、原価管理システムにはどのような機能があるのでしょうか?
以下では、システムの基本的な機能について説明します。
原価計算
原価管理システムで必要な項目を入力すれば、自動で原価計算が行われます。
原価計算の種類は以下の通りです。
- 個別原価計算
個別の製品に関する原価を計算する方法。 受注生産を行っている場合に利用することが多いようです。 - 総合原価計算
特定の期間内に発生した原価を計算する方法。 すべての費用と製造した製品の数で計算します。 大量生産を行う場合に利用します。 - 費目別原価計算
製品原価を、材料費・労務費・経費に分類し、製造への関与形態によって「直接」と「間接」に分けて原価を計算する方法。 - 部門別原価計算
費目別計算で算出された原価を、部門ごとに分けて明確化する方法。 - 製品別原価計算
製品の種類ごとに分類し、製品を1単位ごとに原価の計算をする方法。
原価差異分析
原価管理システムでは、計画上の原価(標準原価)と実際にかかった原価(実際原価)の差異を分析することが可能です。この分析を行うことで、原価が高くなった原因を探求でき、原価管理の改善につながります。
原価の差異は、有利差異と不利差異の二つに分けられます。
有利差異とは、想定していた原価より、実際原価が低い場合に生じる差異です。
一方で、不利差異とは、想定していた原価より、実際原価が高い場合に生じる差異です。不利差異の原因を分析することが、改善のカギとなります。
損益計算
原価管理システムには、収益判断という機能があります。
これは、これから発生する可能性のコストをあらかじめ減らし、原価を考える仕組みです。
通常の原価計算機能に加えて、製品別のプロダクトライフサイクルコストを把握することが可能です。
プロダクトライフサイクルコストとは、調達、製造、使用、廃棄といった段階にかかるコストを合わせたものです。
このコストを把握することで、限界利益が判断でき、収益性や機会損失などの分析が可能となります。
従来、原価管理システムは生産後の原価低減が重要視されていました。
しかし、この機能により、製品の企画・設計の段階で製品別の収益性判断ができ、利益を上げるためのシステムとして利用することも可能になります。
原価シュミレーション
原価管理システムは、原価シュミレーションを行うこともできます。
原価シュミレーションによって、原価の変動を把握できるようになります。
原価の変動は、たとえ小規模であっても、企業にとっては大きな損害となる場合があります。
原価の変動を予測し、対応策を講じることが大変重要です。
さらに、蓄積された原価データから中長期の経営シュミレーションを行うことも可能です。
利益目標を重視する方法や、現状維持の方法など、企業や業種による多様な条件をクリアし、現実的なシュミレーションを行う機能が備わっています。リスクへの対応や経営戦略の立案に役立つ機能です。
配賦
配賦とは、ある特定の部門や店舗だけでなく、会社全体に発生する費用や、複数の商品、複数の部門に共通して発生する費用を分配することです。
原価管理システムでは、こうした配布対象となる費用に関して、配賦のパターンを定義することができます。
システムの多くは、部門別・製品別の配賦のみならず、部門や製品ごとに配賦方法を設定する機能を持っています。
システム連携
原価管理システムは、販売管理や在庫管理、会計システムなど、既存のシステムと連携させることが可能です。
他のシステムと連携させることで、経営情報を一元管理することができ、情報共有がスムーズに行えます。また、運用コストの削減にもつながります。
セキュリティ対策
原価管理システムは、それ自体に内包されたデータが企業の財産となります。 そのため、情報の改ざんや紛失は、企業にとって大きな損害となり得ます。
このような情報を守るため、アクセスのコントロール、パスワードの管理、部門別・業務レベル別のアクセスの管理などが可能です。
また、外部出力に関する設定や、操作・データ更新の履歴を監査証跡する機能、データ改ざんの防止機能など、内部統制を可能にする機能を備えています。
原価管理システムの選び方
これまで、原価管理システムの概要や基本的な機能について確認してきました。
実際に原価管理システムの導入を検討するとなると、どの製品を選べば良いか悩むこともあるのではないでしょうか。
以下では、導入目的に合った原価管理システムを選ぶために、押さえておきたいポイントを3点ご紹介します。
業種や業界に合っているか
原価管理は、業種や業態によって計算方法やルールが異なります。 自社の原価計算方法や細かいルールを確認し、より条件が合致する原価管理システムを選びましょう。
また、システムを実際に生産ラインに導入する場合は、現場の意見を集約することも重要です。
製造現場と連携して、実用的に活用できる製品を見極めましょう。
他システムとの連携は可能か
原価管理は、経理業務のなかで独立しているわけではなく、製造管理や在庫管理と密接に関係しています。
他のシステムと連携ができない場合、データをその都度手入力する必要があり、手間がかかります。
また、連携するにあたって、新たに開発が必要になることもあります。
そのため、他のシステムとの連携ができるかどうかは非常に重要なポイントです。
近年は、ERPパッケージの一部として提供される原価計算システムも増えています。システム間の連携や導入に必要な作業コストを考えると、パッケージでの導入が効率的な場合もあるでしょう。
ERPに関連する記事はこちら
カスタマイズは可能か
原価管理システムをパッケージで導入する場合でも、注意しておきたいポイントがあります。
導入したシステムが業種や業態にマッチしていても、原価管理の方法は企業によって異なります。
自社業務に合わない部分が見つかれば、より使いやすいものにするためのカスタマイズが必要になります。
カスタマイズ性や拡張性の高いシステムを選ぶことで、新たな開発の必要もなく、コストを抑えることができます。
主な原価管理システム(建築業向け・5選)
以下では、実際の原価管理システムを紹介します。
今回は、建築業界、製造業界におすすめのシステムを選出しました。
まず、建築業向けのシステム5つの特徴をみていきます。
アイピア
アイピアは、リフォーム・建築業の特化型業務管理ツールです。
原価管理にあわせて、顧客管理や工程管理、帳票作成など、多岐にわたる機能が集約されています。
また、これらの機能は、カスタマイズ可能な状態で搭載されています。
特 徴
- 現場の状況に合わせた対応が可能
小規模な工事で、見積や実行予算を作成していない場合でも発注書を作成することが可能です。 また、契約前の案件の発注書を作成することもできます。 - 発注フローを管理
発注書の申請や承認のフローを設定し、権限者の承認を得たうえで発注書を発行できます。 - 一元管理
見積時の原価を実行予算として取り込み、発注書を作成することが可能です。 工事中に発生した追加工事も簡単に入力できます。 原価の変動をリアルタイムで確認できるため、粗利低下の防止につながります。 - 粗利の低下理由が明確化
契約時から最終までの進捗の段階ごとに粗利の推移を把握できます。 - 様々な分析が可能
発注一覧、請求一覧、支払一覧などの帳票を業者別、案件別に出力できます。 また、これらを用いた様々な分析が可能です。
提供形態 | クラウド |
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参考価格 | ライトプラン:120,000円~ ベーシックプラン:360,000円~ プロフェッショナルプラン:450,000円~ |
体験版 | 無料体験デモあり |
レッツ原価管理Go2
レッツ原価管理Go2は、見積から実行予算、発注、原価管理、支払管理、回収管理など、建設業に必要な業務を一元で管理することができます。
建設業に加えて、個別原価管理が必要な受注型製造業や企画・制作業などにも対応しています。
特 徴
- 複式簿記を使わない
入力したデータを自動的に複式データとして処理できます。 複式簿記を使う必要がなく、誰でも簡単に入力できます。 - 様々な分析が可能
案件ごとの材料や外注の原価などを細かく確認でき、分析することが可能です。 - 承認機能搭載
工事登録や伝票入力画面に承認機能が搭載されています。 このため、入力担当と承認者の業務を分担することができます。
提供形態 | スタンドアロン、クラウド |
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参考価格 | スタンドアロン型:660,000円 クラウド型(2クライアント):1,100,000円 |
体験版 | 無料体験あり(45日間) |
どっと原価NEO
どっと原価NEOは、工事部門、経理部、経営者と幅広い層に対応したシステムです。
見込み顧客からアフター管理まで、部門に合った多様な機能が搭載されています。
特 徴
- オプションが選択式
様々な機能の中から、企業に合った組み合わせを考慮し、導入することが可能です。 オプションは、導入後に追加することもできます。 - 外部ソフトとの連携が可能
財務会計や給与計算など、他の業務ソフトと連携することができます。 - ドリルダウン
情報を掘り下げて、入力伝票までさかのぼることが可能です。 また、伝票データを修正すれば、元帳や一覧表の集計結果にも即座に反映されます。
提供形態 | オンプレミス、クラウド |
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参考価格 | オンプレミス:1,100,000円(小・中規模向け) クラウド:960,000円~(16~20人/1年利用) |
体験版 | 無料デモあり |
ガリバーシリーズ
ガリバーシリーズは、建設業のシステム部門が開発した、統合型工事ソリューションです。
案件発生から工事発生まで、様々な業務を一元管理することができます。
特 徴
- 受注工事物件の一貫管理が可能
工種、費目、協力業者など多様な管理体系による原価管理機能が搭載されています。 また、部門別の工事利益予想管理が可能です。 - 工事照会
照会画面から、工事の受注登録や原価予想入力、工事進捗予想入力画面などへの遷移が可能です。 - 期末利益予想機能
予想、予定、実績による期末予想を早期に把握することができます。 また、期末予想数値を集計する際、どの引き合い案件までを含めるか、受注ランクに応じてシュミレーションすることが可能です。
提供形態 | クラウド |
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参考価格 | お問い合わせ |
体験版 | - |
建築原価ビルダー3
建築原価ビルダー3は、コスト管理に役立つ様々な帳票を簡単に作成できる工事台帳管理システムです。
工事の規模を問わず、受注工事の原価削減、仕入れ・支払などの業務における管理コストの削減を可能にします。
特 徴
- 柔軟な対応
様々な運用方法に対応可能な原価管理システムです。 支払いを基準とした原価計上や現場への配賦を基準とした原価計上などが可能です。 - 豊富な帳票
あらゆる角度から原価と予算の関係を分析することが可能です。 - パスワード管理
「総責任者」「管理者」「社員」の3種のパスワードを設定することができます。 業務フローにあわせて許可する業務を設定でき、企業の用途に即した活用が可能です。
提供形態 | スタンドアロン、LANパック |
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参考価格 | スタンドアロン:120,000円 LANパック:260,000円(ライセンス2+マニュアル2セット) |
体験版 | - |
主な原価管理システム(製造業向け・3選)
建築業向けのシステムに加え、以下では、製造業向けの原価管理システムを3つ紹介します。
J-CCOREs
J-CCOREsは、独立した原価管理システムです。
用意された標準データフォーマットにより、既存のシステムのデータを活用した原価計算や採算管理が可能です。
特 徴
- 「ころがし計算」を採用
「ころがし計算」とは、各製造工程の受払情報から算出した、工程ごとの製造原価をころがす(積み上げる)ことで、製品の原価を導きだす方法です。 また、計算順序や使用量の設定が不要で、製造工程や品目構成の変更にも迅速に対応することができます。 - 複雑な製造工程にも対応
化学品や薬品など、原価計算が複雑になる場合にも、多様な標準機能を組み合わせることで柔軟に対応することができます。 - ドリルダウンによる原価低減
ドリルダウン分析機能により、完成品から原材料への工程を遡及し、工程ごとに要素別の原価を参照することが可能です。 - 多様な面からの損益分析
製品単位だけでなく、事業部、製品グループ、顧客など様々な分析軸から収益や採算の管理を行うことができます。 - カスタマイズ可能
ユーザーが計算結果を自由にカスタマイズし照会するBI機能が搭載されています。
提供形態 | オンプレミス、クラウド |
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参考価格 | お問い合わせ |
体験版 | - |
AMMIC/NetC
AMMIC/NetCは、会計システムに連携可能な原価管理システムです。
ABC(Activity-Based-Costing)計算により、実作業に応じた経費の配賦が可能です。
特 徴
- 様々なシュミレーション
原料単価変動、固定費変動など様々な要因による原価シュミレーションが可能です。 - 予算原価の算出
年次・半期・四半期などの累計による計算など、原価計算の期間タイプは柔軟に対応することができます。 原価計算の組織のくくりを「原価サイト」と自由に設定することで、様々な切り口からの原価計算が可能です。 - 原価差異の算出
標準原価を設定している場合、実際原価との差異を算出することができます。 また、差異の原因を追究することで、コストダウンに役立てられます。
提供形態 | パッケージ |
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参考価格 | お問い合わせ |
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Ross ERP
Ross ERPは、プロセス製造業に特化した機能を備えたERPパッケージです。
化学業界や食品業界をはじめ、国内外で高い評価を得ています。
特 徴
- 原価計算と粗利計算
上流から下流への流し計算により、行程ベル・品目別の原価計算が可能です。 また、販売実績データを自動収集し、原価と同時に粗利を計算することができます。 - 多様なシュミレーション機能
予実の区分を複数設定し、その区分ごとに原価のシュミレーションを行うことができます。 また、実績と予算をあわせて収支予測シュミレーションを実施することも可能です。 - 原価管理の独立利用が可能
まずは原価管理からスタートするといった導入方法にも対応しています。
提供形態 | パッケージ |
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参考価格 | お問い合わせ |
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まとめ
本記事では、建築業向けと製造業向けの原価管理システムを紹介しました。
他にも、総合的なタイプやプロジェクト管理向けのものなど、その種類は多岐にわたります。
原価管理システムは、導入後いかに活用できるかが重要です。
導入にあたっては、今回まとめたポイントをぜひご参照ください。
弊社が提供する『建築業向け管理システム アイピア』は、建築業に特化した一元管理システムです。
工事ごとの原価管理のみならず、見積機能や発注機能などをまとめて管理することが可能です。
原価管理システムの導入を考えている方は、ぜひ一度アイピアをご検討ください。
原価管理の基礎に関する記事
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