建築工事を行うにあたっては、多くの人がさまざまな作業に携わることになります。
1つの作業を行うのに1人何時間かかり、どのくらいの作業時間や人手が必要になるかで工賃や人件費に違いが出ます。
正確な見積もりが出せないとコストを低く見積もってしまい、赤字工事になるおそれがあるので注意が必要です。
そこで活用したいのが、歩掛です。
歩掛とは何なのかをはじめ、歩掛を活用するメリットや計算方法を解説していきます。
歩掛とは
歩掛とは、工事現場である1つの作業を行うにあたって、必要となる作業手間を数値化したものです。
工事の見積もりを作成するうえで、歩掛を利用すれば、より正確な施工期間や人件費を導き出すことができます。
歩掛はなぜ必要?
工事現場では、工事ごとに使用する材料や資材、作業する場所や設置する場所などの環境が異なります。
職人の経験や技術にも差があるので、同じ作業を行うにも、作業時間に差が出ることも少なくありません。
歩掛は作業を行うために必要な作業時間を数値化したものですが、これまでの実績をもとに、作業現場や環境、材料、施工方法や難易度などでにより、細かく数値化されているのが特徴です。
現場や担当する職人のレベルなどに応じて、適切な歩掛を用いて見積もりを算出することで、より現実に即したコストの計算ができ、赤字工事になるリスクを防ぐことができます。
歩掛の計算方法
歩掛はどのように計算に用いるのでしょうか。
建築工事の見積もりでは、人工を適切に見積もることが重要になります。
人工は作業量を表す単位のことで、1日の労働時間を8時間とした場合の1日で行える作業量は1人工で表します。
1人の作業員が行う作業時間から人工を求める計算式は、下記の式で求められます。
人工=(1人×必要作業時間)÷8時間
たとえば、とある作業をするのに、作業員1人で2時間かかると想定される場合の人工は、(1人×2時間)÷8時間=0.25人工です。
この作業は歩掛が0.25人工ということになります。
見積もりにあたって必要となる労務費は、このように計算できます。
労務費=所要人数(想定作業量×作業の歩掛)×労務単価(基本日額+割増賃金)
たとえば、この作業を5人で1日8時間かけて行う場合で、1人あたりの日額単価を1万円とする場合、どうなるでしょうか。
労務費=5(8×0.25)×10,000=100,000となり、労務費は10万円と求めることができます。
見積もりに関する記事はこちら
歩掛標準の設定基準
工事の見積もりで用いる歩掛は、国土交通省が公表している「公共建築工事標準単価積算基準」を用いて計算するのが一般的です。
各材料などに応じて標準歩掛が数値化されています。
では、歩掛標準はどのような設定基準で数値化されたのでしょうか。
主な要素として、年齢、資格、経験が反映されています。
年齢
標準歩掛の設定基準において年齢は、健康な青年や壮年が想定されています。
いわゆる、働き盛りで、体力的にどんどん動ける年齢です。
資格
資格の有無によって歩掛が異なります。
資格がないと携われない作業もありますし、資格がなくても携われる作業でも、専門的な資格を有している人と、そうでない人では作業のスピードに違いが出ます。
そのため、資格の有無も標準歩掛の設定基準の一つです。
経験年数
経験年数でも作業のスピードは異なってきます。
そのため、実務経験の浅い新人と、職人として1人前になった実務経験10年以上のベテランで、異なる標準歩掛が設定されています。
歩掛データを利用するうえでの注意点
標準歩掛の歩掛データを利用するには、そのまま単純に当てはめるのではなく、自社の職人や下請会社の職人のレベルなどに合わせて、実際の現場に近い歩掛を適用することが大切です。
たとえば、標準歩掛では年齢は働き盛りの年代が想定されていますが、高齢化で60代、70代の職人が活躍している現場も少なくありません。
その場合には調整が必要です。
また、作業を担当させる職人の資格の有無や複数名で対応する場合の有資格者の割合などで、歩掛が異なることになるので注意しましょう。
さらに、経験が浅い職人に担当させるのか、熟練の職人が行うかでも歩掛を調整しないと、正確な見積もりが出せません。
歩掛を活用するメリット
見積もりを行ううえで、歩掛の利用は必須ではなく、義務もありません。
そのため、中には経験則やだいたいこのくらいといった長年の感覚から労務費などを計算しているケースも少なくありません。
経験則ではなく、歩掛を活用すると、どのようなメリットがあるのか確認していきましょう。
赤字を回避できる
まず、現場や職人の状況に合わせ、適切な歩掛を用いて、実際の現場に即した労務費を計算できるようになれば、赤字工事のリスクを回避できます。
歩掛はどの材料を用いるかにより、職人の年齢や経験、資格なども考慮して作業量の数値化が行われています。
各作業を担当させる職人のレベルなどを考慮できるだけでなく、初めて用いる材料やあまり扱ったことがない材料でも、適切な見積もりを出すことが可能です。
歩掛の使用により、見積額より実際の費用が大きく上回ってしまうような赤字を回避できます。
見積精度が向上する
歩掛は、使用する材料や担当する職人のレベルで、より現場に即した精度の高い見積もりができます。
たとえば、屋根工事なら金属屋根なのか、スレート屋根なのか、瓦なのか、防水工事ならウレタンなのか、塩ビシートなのか、FRBなのかという材料別、かつ担当する職人の経験や資格、年齢などによって、どのくらいの作業時間がかかり、単価いくらで作業するのかを設定できます。
見積精度が向上すれば、より適正な利益を弾き出せ、業績アップにもつなげることが可能です。
適切な労務費がわかる
工事を行ううえで、欠かせないのが人手です。
人の力なくして工事は成り立ちません。
見積もりの中でも、労務費は大きな割合を占めます。
労務費の設定を見誤ると、赤字が出るおそれがあります。
自社や下請会社の職人のレベルに応じた歩掛を用いることで、より適切な労務費を算出できるのがメリットです。
スケジュール管理が可能
歩掛は1つの作業にかかる作業時間がわかるので、工事のスケジュール管理にも役立ちます。
とある工事に配置する職人のレベルだと、何時間、何日の施工期間が必要かを導き出すことが可能です。
また、新人だと3名で1日がかかりの作業が、ベテランなら2名で半日でできるなど、限られた人材と時間を適切に割り振ることも可能になります。
急ぎの工事など、納期までの日数が短い場合には、ベテランを中心に配置するなど、複数の現場を抱える場合でも調整が可能です。
見積時に、施工期間がどのくらいかかるかをより正確に導き出せるようになるだけでなく、施工中のスケジュール管理もしやすくなります。
天候不良で工事ができない日が続き、納期までの期間がタイトになった時は、作業スピードの速いベテランを派遣するなどで、納期厳守に向けたスケジュール管理が可能です。
現場の効率化に役立つ
歩掛を用いて見積もりを計算するようになると、職人によって作業量や作業スピードに差が出ることを、より強く意識できるようになります。
現場の業務効率化のために、経験が浅い職人とベテランをバランス良く配置できるようになります。
また、天候不良などの影響で工期に遅延が生じている場合には、納期に間に合わせるようベテランを回すなど、工事の途中でも調整できるノウハウが身につくのもメリットです。
見積もりを出すにも、経験則やどんぶり勘定で行うより、適切な歩掛を使う習慣が身につけば、より効率的に見積もりが出せるようになるのもメリットです。
顧客からの信頼につながる
見積もりを提示した際に、労務費などの算定の根拠が明らかにできれば、顧客からの信頼につながり、適正価格として依頼ももらいやすくなります。
「何でこの価格なのか?」、「もっと安くできるのではないか?」などと問われた時に、根拠が説明できるのと的確な説明ができないのでは、顧客の印象に大きな違いが生まれます。
顧客の多くが、他社との相見積もりを取り、比較検討を行うため、価格の違いがなぜ生まれるのか、納得できる説明が受けられるかどうかは重要な判断要素です。
たとえば、「工事の品質とスピードを挙げるために、ベテラン職人を多く配置した。一般的な職人なら14日間かかる工事が、10日に短縮されている。」などと説明できれば、施工期間が短くなるなら、この価格も仕方ないと納得してもらえます。
価格が安い会社ではなく、「ベテラン職人を派遣してくれ、より高品質に仕上がるなら、この会社に頼もう。」と決断する顧客もあることでしょう。
精度が高く、根拠ある見積もりは顧客からの信頼を勝ち取り、競合他社との競争にも打ち勝つ武器になります。
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まとめ
歩掛とは、ある1つの作業を行うにあたって、必要となる作業手間を数値化したもので、作業に使用する材料や担当する職人のレベルに応じた適切な数値が設定されています。
歩掛を用いて計算することで、どの作業にどのくらいの時間や労務費がかかるかを、現場の状況に即して算出できるようになり、実際に即した見積もりを出せるようになるのがメリットです。
歩掛標準の設定基準には、作業を行う職人の年齢や資格の有無、経験年数も反映されています。
歩掛データを利用するうえでは、自社や下請会社の職人のレベルや使用する材料など、現場に即した適切な歩掛を用いることが大切です。
歩掛を活用するメリットとして、赤字を回避でき、見積精度が向上し、適切な労務費がわかります。 スケジュール管理がよりスムーズかつ柔軟にできるようになり、現場の効率化にも役立ちます。 労務費や施工期間の根拠が明確にできることから、顧客からの信頼につながり、依頼をもらいやすくなるのもメリットです。
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