リスキリングという言葉を見聞きしたことがありますか。
最近、ニュースなどでも話題となっているものです。
企業によってはすでに導入しているところもありますが、これから導入しようか検討しようというケースもあることでしょう。
導入段階にないという企業も、これからの時代に求められているリスキリングについて理解し、必要とされる背景や導入手順を確認していきましょう。
リスキリングとは
リスキリングとは、スキルの再習得を意味します。
その目的は、現在の職場において環境変化や企業の期待に応えるために必要なスキルを習得することや転職するために新たなスキルを身につけることです。
リカレント教育との違い
この点、リカレント教育も少し前に注目を集めた言葉です。
リカレント教育とは、学校を卒業した後も学びの機会が必要という概念になります。
社会に出てから、仕事で求められる能力を新たに学ぶことや現在のスキルや知識を深めるために、職場を離れ、大学や専門学校などの外部機関で学び直すことを意味します。
現在の仕事とまったく関係ないことを学ぶのでもかまいません。
これに対して、リスキリングは必ずしも職場を離れて外部機関で学ぶ必要はありません。
リスキリングは、単なる学び直しではなく、仕事をしていく中で、これからも新たな価値創出し続けるために必要なスキルを学ぶことを意味します。
アンラーニングとの違い
アンラーニングは、日本語では学習棄却などと呼ばれます。
既存の知識やスキル、経験などをいったんリセットし、時代の変化や環境の変化に対応した柔軟な知識やスキルを習得し直すことを意味します。
これまで身につけてきたスキルや知識、ノウハウで、これからの時代に邪魔になるものや有効でなくなった手段は捨てるということです。
これに対してリスキリングでは、これまで得てきた知識やスキル、蓄積されたノウハウを切り捨てる必要はありません。
それに加えて、新たなことに対応できるスキルや新たな価値を生み出せるスキルもプラスで得るということです。
生涯学習との違い
生涯学習は社会人に限らず、子どもから定年退職したシニアや専業主婦などあらゆる方が、何歳になっても自分の興味にもとづいて自由に学ぶことができることを意味します。
仕事上のスキルに限らず、一般的な教養や趣味、スポーツや歌、楽器演奏、英会話やリクリエーション、ボランティア活動などさまざまな活動が含まれる概念です。
リスキリングはこれからの仕事のうえで役立つスキルを学び、新たな価値を生み出し続けることを意味するので、自由度が高く、年齢も目的もさまざまな生涯学習とは異なります。
建設業のスキルアップに関する記事はこちら
リスキリングが注目された背景
では、リスキリングはなぜ注目されているのでしょうか。
その背景として、代表的なものをご紹介します。
DXの推進
1つ目はDXの推進です。
日本ではDXを担えるデジタル人材が不足していると言われています。
外部から専門人材を雇いたくても、人材不足で雇うことができません。
時代の変化やニーズ、ビジネススピードに対応するためにDXの推進は不可欠となっています。
そこで、リスキリングによってデジタル技術を使いこなせるようになり、DXを推進できるスキルやノウハウが身につけることが求められるようになりました。
工務店におけるDXとは?DX成功事例や導入のコツを解説!働き方の変化
現在の働き方は、社員として新卒から定年まで同じ会社で働き続けるケースが少なくなっています。
自ら好んでフリーランスとして働く方もいれば、子育てや介護との両立のために在宅ワークを希望する人、地方にいながら都心の企業の仕事をするリモートワーカーやワーケーションをする人も増えてきました。
働き方の変化に対応するためにも、リスキリングは不可欠です。
たとえば、リモートワークをするには、パソコンやインターネット、アプリなどが使いこなせる力をはじめ、すぐ傍に上司や同僚がいなくても、モチベーションを維持し、遠隔でコミュニケーションを取りながら、自主的に仕事を進めていくスキルも必要になります。
世界的な取り組み
リスキリングは、日本だけでなく世界的にも行われているものです。
ビジネスがグローバル化し、情報の伝達スピードも一瞬で世界を駆け巡る中で、日本だけが世界に立ち遅れるわけにはいきません。
そのため、経済産業省をはじめとする国もリスキリングを推奨しています。
経済産業省HP:令和4年度補正予算「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」(二次公募)の事業を採択しました社内でリスキリングに取り組むメリット
社内でリスキリングに取り組むメリットはどんな点でしょうか。
主なメリットを見ていきましょう。
人材不足に対応できる
社内でリスキリングに取り組むメリットの1つ目は、人材不足に対応できることです。
日本は少子高齢化が深刻化しており、業界や業種、企業規模や知名度などを問わず、人手が足りずに悩んでいるケースが増えています。
必要なスキルを持つ人材を雇いたくても雇えない、専門性の高いスキルを持つ人材は獲得競争が激しいといった実情があります。
リスキリングを通じて、社内で人材の育成ができれば、人材不足にも対応できます。
複数のスキルを持つ人材を兼務させることをはじめ、これまでは一般的な事務仕事しかしていなかった方が、新たなスキルを身につけることで、新たなポジションで活躍することが可能です。
社内業務をよく知る人材に取り組んでもらえる
リスキリングでは、社内で今足りないスキルやこれからの事業展開などに必要となるスキルを持つ人材を社内で育成することができます。
もともと社内業務を知っている人材が新たなスキルを取得していくので、より効率的かつ効果的に新たな業務にも取り組むことが可能です。
自発的に業務に取り組む空気が生まれる
単調な作業やルーティン業務ばかりをこなしていると、飽きてしまうことや仕事へのモチベーションが低下しがちです。
人によっては、もっとやりがいがある仕事がしたいと転職してしまうケースも少なくありません。
リスキリングの機会を提供することで、チャレンジする気持ちが生まれ、自発的に業務に取り組む空気が生まれます。
離職の防止、定着率アップはもちろんのこと、業務効率アップや生産性の向上が期待できます。
人材不足に関する記事はこちら
リスキリングを進める手順
リスキリングを進める手順は以下のステップに沿って順次行っていきましょう。
リスキリングで習得すべき事柄を決定する
まず、社内の課題を整理し、足りていない人材や求めるスキルなどを洗い出しましょう。
時代や環境の変化に対応するためやこれからの企業成長のために必要となるスキルを検討し、リスキリングで習得すべき事柄を決定します。
リスキリングのプログラムを考案する
続いて、習得すべき事柄をどのように学んで身につけていくのか、リスキリングのプログラムを考案します。
いつどんな段階で、どのような人材がチャレンジするのか、学ぶスケジュールや実践の段階、ステップアップなどのプログラムを構成しましょう。
リスキリングで活用する教材を決定する
リスキリングをする際に、どんな教材を使うかを決定しましょう。
教材は必ずしも自社で開発、作成する必要はありません。
外部の専門機関などが提供しているテキストやセミナー、eラーニングなどを利用しても問題ありません。
従業員に取り組んでもらう
リスキリングの目的や期待する成果、プログラムの内容などを説明し、チャレンジしたい従業員に取り組んでもらいましょう。
習得したスキルを実践する機会を設ける
学んで終わり、習得して終わりでは意味がありません。
必ず習得したスキルを実践する機会を設けることが大切です。
新たな部署のポジションを与えることや新たな事業の立ち上げに参画させるほか、一時的なプロジェクトに参加させることや現在の職場の支援業務など、本人が習得成果を実感できるスキルの実践ができる場が必要です。
リスキリングを実施する際の注意点
リスキリングを実施する際の注意点として、以下の点に気を付けましょう。
取り組みやすい環境を整える
取り組みやすい環境を整えることは企業の責務です。
仕事が忙しすぎて、新しいスキルの習得などしている場合ではない場合には取り組むことができません。
毎日残業続き、一人に業務が集中しているなどの場合には、まずは業務効率化などの働き方改革が必要です。
従業員の自発性を尊重する
従業員の自発性を尊重することも大切です。
これからの時代はリスキリングが必須だといって、全員に押し付けないようにしましょう。
リスキリングの目的やプログラム内容などを説明し、まずはチャレンジしてみたい人からスタートさせます。
最初は傍観していた方も、スキルアップして活躍している姿を見れば、自分もやってみたいと手を上げてくれるはずです。
自主性がないと、実践に結びつく効果的なスキルが身につかないことも少なくありません。
自主性があればより高いスキルを習得しやすくなります。
社内の課題解決につながる教材を選ぶ
教材は自社で開発する必要はありませんが、社内の課題解決につながる教材をしっかりと取捨選択しましょう。
知名度が高いから、費用が安いからではなく、課題解決につながるスキルが学べ、自社の従業員のレベルや経験に合って学びやすいことがポイントになります。
建設業のスキルアップに関する記事はこちら
企業のリスキリング事例
企業のリスキリング事例をご紹介しますので、参考にしてください。
日立製作所
日立製作所では、国内グループ企業の全社員となる約16万人を対象にDX基礎教育を実施しました。
DX推進が目的であり、これからの時代には全社員の習得が必要と考えました。
社員にとっても、DXが進められる中で、自分だけ対応できなければ仕事もこなせなくなり、利便性も悪くなるので、取り組みたいと思うモチベーションも生み出すことが可能です。
参考:日経転職版『日立、リスキリング管理システムを全社員に導入』マイクロソフト
マイクロソフトでは、自社だけでなく社外にも無償でリスキリング講座を提供しています。
具体的には、コロナショックで失業してしまった2,500万人を対象に、再就職に役立つリスキリングの無償支援を提供しました。
これにより、コロナで売上が上がらなくなったような職種から、コロナ禍でも仕事ができるような新たなスキルを身につけることができます。
参考:Microsoft『日本マイクロソフト、パーソルイノベーション デジタル人材育成で協業 デジタル×人の力で日本の DX 推進を加速』富士通
『ITカンパニーからDXカンパニーへ』を掲げ、人材のリスキリングを重要課題と位置付けました。
まず、4~5人のチームを組んで、同僚と対話しながら各自が自分のパーパスを形にしていく「Purpose Carving」と呼ばれる独自のプログラムに取り組ませています。
目的が明らかになったところで、富士通が開発した学びのプラットフォーム「Fujitsu Learning Experience」を使って学びの機会も提供しています。
建築業向け管理システム アイピア
まとめ
リスキリングとは、スキルの再習得のことを指します。
リカレント教育が別の場で専門的な社会人教育を受けるのに対して、リスキリングは仕事に必要な新たなスキルの習得を行うことです。
アンラーニングは、これまでのスキルや知識、経験などをいったんリセットして学び直すのに対し、リスキリングは現在のスキルや経験に加えて新たなスキルを得ることを意味します。
生涯学習は、一生を通じての学びやいつでも自由に学ぶ機会があることを意味しますが、リスキリングは企業が環境を用意したうえで、従業員が自主的にスキルを習得していくことが求められます。
リスキリングが注目された背景は、DXの推進、働き方の変化、世界的な取り組みです。
社内でリスキリングに取り組むメリットとして、人材不足に対応できること、社内業務をよく知る人材に取り組んでもらえること、自発的に業務に取り組む空気が生まれることが主なメリットです。/p>
リスキリングを進める手順は、リスキリングで習得すべき事柄を決定する→リスキリングのプログラムを考案する→リスキリングで活用する教材を決定する→従業員に取り組んでもらう→習得したスキルを実践する機会を設けるという流れになります。
リスキリングを実施する際の注意点として、取り組みやすい環境を整えること、従業員の自発性を尊重すること、社内の課題解決につながる教材を選ぶようにしましょう。