見積書における値引きの表記方法と注意点

見積書における値引きの表記方法と注意点

取引先の予算内に見積金額を納めたい、競争相手に差をつけたいといった理由から、見積書を提示する際に値引きをするケースは少なくありません。

受注を獲得したいからと、値引き後の価格だけを表示していませんか。
ここでは、見積書上で値引きをする場合の表記方法と注意すべき点を解説していきます。

見積書の値引きの表記方法

見積書の値引きの表記方法における大切なポイントは次の3点です。

  1. 値引き前の金額も記載すること
  2. 「△」「▲」「-」の表記を使うこと
  3. 値引きの理由も記載すること

それぞれ詳しく見ていきましょう。

値引き前の金額も記載する

値引き後の金額だけを表示して、「安い」と印象づける方法はNGです。

値引き前の正式な見積額を示したうえで、そこから値引きをすることを徹底しましょう。

本来の価格から値引きをしてもらったとわかったほうがお得感があり、有利な契約に思えます。
値引きをしてもらったのだから、発注を検討しようと前向きに検討してもらえる心理的な効果も生まれるからです。

この点、値引き前の金額を記載するとわざとらしいと、躊躇する方がいます。
もともと値引き後の価格で工事ができるのに、わざと高い金額を出して、契約してもらえるように値引きしたのではと思われると心配するケースです。

ですが、値引き前の金額も記載することは、工事の品質を保つことのアピールにもつながります。

たとえば、2,000万円の工事から100万円値引きして、1,900万円で請け負うのと、最初から1,900万円で提示するのでは印象が違います。
前者は2,000万円の工事、後者は1,900万円レベルの工事と思われかねません。

さらに後日、同様の工事を発注される際など、金額を巡るトラブルのもととなります。

今回の見積依頼では、値引きせずに2,000万円で提示した場合や値引き額を50万円に下げたとします。
前回の見積書に本来の価格を書いておかないと、前回は1,900万円だった、前回より高いとクレームを言われかねません。

「△」「▲」「-」の表記を使う

見積書で値引き額を表記する場合、値引き額の先頭に「△(白三角)」か「▲(黒三角)」または「―(マイナス)」を付けましょう。
たとえば、10万円の値引きなら△100,000、▲100,000、ー100,000という表記です。
どの表記でもかまいませんが、社内で同じ表記を使うようにしましょう。

見積書表記ルールを設け、統一させておくことが必要です。
「―(マイナス)」は見えにくい場合があり、特にプリントアウトした場合、紙の品質が悪い場合や印字具合が薄いと見えなくなるおそれがあります。
「△(白三角)」も白抜きなので目立ちません。

一番、はっきりするのは「▲(黒三角)」です。
もっとも、これまで自社の運用として使われてきた記号があれば、混乱をきたさないよう、同じ文字を使っていきましょう。

また、見積ソフトを使う場合には、そのシステムのルールに則るのが基本です。
選択ができる場合には自社の従来のルールで選ぶか、システム導入により新たなルールを設けて、一番見やすく間違いの少ない表記を選びましょう。

値引きの理由も記載する

どうして値引きしたのか、その理由も明記しましょう。

経緯などを詳しく文章にするのではなく、一言で簡潔に記します。
「納期変更による値引き」、「初回限定値引き」、「大口発注による特別値引き」といった形です。

そのうえで、実際に対面やメールなどで値引きの理由を具体的に説明することが大切です。
値引きの理由が明記されていないと、この会社は常に値引きしてくれるに違いないと思われかねません。
新たな見積時に値切られるなど、後の取引で不利になることがあるので注意が必要です。

値引きの注意点

見積書で値引きを記載する際の注意点として、消費税の計算のやり方を徹底すること、改ざん防止のためのカンマを付けることが欠かせません。
値引きの注意点について詳しく見ていきましょう。

消費税の計算

インボイス制度の請求書のもとでは、単品ごとの端数処理は認められていません

そのため、見積書の段階でも合わせておくことが基本です。

端数処理は全体の金額に対して、1回でまとめて行う必要があります。

なぜかといえば、消費税は品物やサービスの販売価格に織り込まれ、最終的な消費者が負担するものです。
エンドユーザーが支払った金額の中に、10%(軽減税率適用の場合は8%)の税相当分が含まれています。

そのため、事業者の税込受取総額×10/110(軽減税率適用の場合は8/108)が売上に対して課される消費税相当額となります。
単品ごとに端数処理を行うと、1回でまとめて行った場合の消費税相当額との差が開くおそれがあることから、一つの見積書ごとにまとめて端数処理します。

なお、端数処理の仕方は事業者ごとに決めてかまいません。
切り上げ、切り捨て、四捨五入など、端数処理の仕方を自社内で統一ルールを設けておきましょう。

見積書で値引きを行う場合には、消費税を計算するタイミングが問題です。
値引きをするタイミングが、消費税計算前と計算後で表記や計算工程にも違いが生じます。

消費税を計算した後で値引きを行う場合、税抜価格を算出する必要があります。
端数処理を行う必要も高まります。
たとえば、税抜金額で300万円の工事請負の見積書の例で見てみましょう。

ケース1(消費税計算前)
請負金額 3,300,000円(税抜金額 3,000,000円)
値引き額 100,000円
請負金額 3,200,000円

ケース2(計算後)
請負金額 3,300,000円(税抜金額 3,000,000円)
値引き額 100,000円
請負金額 3,200,000円(税抜金額 2,909,091円)

面倒な計算を避け、端数を生じさせないためには、内訳をあらかじめ値引き金額に合わせて計算するほうがスムーズです。

改ざん防止のためのカンマ

取引の相手方を信用しないわけではありませんが、値引き額を改ざんされないようカンマは必ず付けるようにします。
これは身内の改ざん防止のためにも重要です。

1,000万円の契約を取るために、本来なら10万円値引きすべきところ、100万円を値引きして契約を成立させるといったリスクが考えられます。
改ざんと主張しても、取引の相手方はそれで合意しているので、会社として本来の価格を主張することが難しくなるため注意が必要です。

たとえば、▲100000では、その後に0を足され、▲1000000とされるおそれがあります。
カンマを打てば、▲100,000となり、ゼロを足すことは難しくなります。

出精値引とは

出精値引は、「しゅっせいねびき」と読みます。
精を出すの意味を持つ値引きで、工事の内容や品質を落とすことなく、企業努力で最大限の値引きをしますという意味です。
逆にいうと、これ以上の値引きはできないため、この見積金額で最終判断をしてくださいというアピールです。

これ以上の値下げ交渉には応じられませんといった、取引相手へのメッセージとも言えます。
見積書でも値引き項目や理由の項目に、「出精値引」と記載されます。

建設業界ではよく使われる言葉なので、「出精値引」とあれば、意味が通じますので心配はいりません。
ただし、見積書で値引きした場合は、出精値引であれ、他の理由であれ、値引きをしたことを説明し、相手の了解を得ておくことが大切です。

取引相手としては、最終的な支払金額だけに注目がいきがちです。
ですが、本来はこの価値がある仕事であるにもかかわらず、企業努力による値引きや取引先限定で特別値引きをしたことを理解してもらいましょう。

もともとその価格でできるのではなく、値引きにより有利な価格になったことを納得してもらうことが大切です。
有利な条件で取引できると納得できれば、競合相手ではなく、自社を選んでもらえます。
また、今後も、引き続き取引をしてもらえるなど、お得意様になってもらえる期待も持てます。

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まとめ

見積書の値引きの表記方法として、3つのポイントを実行しましょう。
値引き前の金額も記載する、「△」「▲」「-」の表記を使う、値引きの理由も記載するの3つです。

本来の価格を表示したうえで、値引きの理由を記載することで、工事の品質が保たれ、取引相手に有利な条件で提案してもらっていることがアピールできます。
見積書における値引きの注意点として、消費税の計算のやり方を徹底しましょう。

もう1つの注意点として、改ざん防止のためのカンマを付けることが求められます。
出精値引は企業努力による値引きで、工事の品質を下げることなく、取引相手の予算に収める場合などに用いられます。

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