規模や建設業許可を得ているかなどは関係なく、どんな工事であっても工事請負契約書の作成は義務化されています。 工事請負契約書の作成方法や標準約款の注意点について解説していきます。
目次
工事請負契約書とは
工事請負契約書とは工事についての細かな決まりを定める契約書です。
建設工事では、一回の取引で大きな金額が動くことになります。
工事内容や工期、工事金額など、どれか一つでも発注者と請負者の間で認識のズレがあると取り返しのつかない事態に発展してしまいます。
トラブルをあらかじめ防ぐ為にも、工事が始まる前に工事についての認識をすり合わせ、双方の合意を得ておく必要があります。
建設業法第十八条 (建設工事の請負契約の原則) 第十八条 建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従つて誠実にこれを履行しなければならない。
引用元:建設業法第十八条
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工事請負契約書の作成は義務
建設工事では、建設業許可を得ているかどうか、元請けや下請け、工事の大きさなどは関係なく、すべての工事で工事請負契約書を作成しなければなりません。
民法では、「買います、売ります」と口頭で契約が成立します。
しかし、一回の取引で大きな金額が動き、工事にも長い時間がかかる建設工事は特殊です。
民法とは別に、工事請負契約書の作成の義務が建設業法で定められています。
建設業法第十九条一項 第十九条 建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
引用元:建設業法第十九条一項
工事請負契約書を作成しなかったら?
国土交通大臣や都道府県知事による指導や、一年以内の営業停止処分を受ける場合があります。
また、建設業許可を受けることが難しくなる可能性があるため、必ず工事請負契約書を作成しましょう。
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工事請負契約書の記載事項
工事請負契約書で義務付けられているのは以下の16項目です。
引用元:建設業法第19条
- 工事内容
- 請負代金の額
- 工事着手の時期及び工事完成の時期
- 工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
- 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法
- 当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若しくは一部の中止の申出があつた場合における工期の変更、請負代金の額の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
- 天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定方法に関する定め
- 価格等(物価統制令(昭和二十一年勅令第百十八号)第二条に規定する価格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容の変更
- 工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関する定め
- 注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸与するときは、その内容及び方法に関する定め
- 注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方法並びに引渡しの時期
- 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
- 工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
- 各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違約金その他の損害金
- 契約に関する紛争の解決方法
- その他国土交通省令で定める事項
工事によって変わる8項目
工事ごとに記載内容を変更しなければならない項目です。
書き換え忘れが生じないようにきちんと確認しましょう。
- 工事名
- 工事内容
- 工事場所
- 工期(工事着手および工事完成時期)
- 請負代金額
- 支払方法
- 調停人(定めない場合は削除)
- その他
工事請負契約書の書き方
工事ごとに変更しなければならない8項目について具体的な書き方を紹介していきます。
1. 工事名
「〇〇〇建設工事」のように、工事の名前を記載します。
2.工事内容
「添付の図面No,1~5、仕様書No,1~4の通り」のように、添付書類のどこに記載されているのかが分かるように記載します。
3.工事場所
地番や住所を記載します。
法務局によって定められた登記上の番号です。
4.工期
工事の「着手時期」と「完成時期」を記載します。
5.請負代金額
工事代金と消費税額、工事代金と消費税額の合計額を記載します。
6. 支払方法
契約締結時金(手付金)、工事着手金、中間金、完成引渡金と分けて支払う場合には、どのタイミングと時期、何割支払うかを明記します。
税別、税込のどちらであるかも記載しておきましょう。
7. 調停人
万が一に契約が守られない場合に、発注者と請負者の間を取り持つ調停人を決めておくことがあります。
この欄には調停人の名前を記載します。
調停人の欄は調停人を定めたとき以外は消しても問題ありません。
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工事請負契約書の添付書類
工事請負契約書には約款が添付されます。
契約書をより詳細に典型化したものが約款です。
契約書に書ききれない細かな条件は約款に記載し画一的に処理します。
様々な機関でテンプレートが公開されていますが、工事の種類によって使用するべき約款が異なるため注意してください。
公共工事標準請負契約約款
公共工事用に作成された約款です。
国の機関や公共団体が発注する公共工事だけでなく、電力、ガス、鉄道、電気通信などの民間工事でも使用することができます。
民間建設工事標準請負系契約約款(甲)(乙)
民間工事用に作成された約款です。
建設工事標準下請契約約款
下請け工事用として作成された約款です。
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工事請負契約書の注意点
標準約款をそのまま使用することは危険です。
工事業者に不利になる条件がいくつか存在するため、注意して使用してください。
工事延期の違約金
標準約款では、工事を延期した時の違約金は14.6%ですが、法律上では遅延の違約金は5~6%です。
違約金の設定を変更せずに標準約款のままにしてしまうと、工期が伸びた場合に高い違約金を払うことになってしまいます。
そのため、工事遅延の違約金についてきちんと見直す必要があります。
工期の延長
標準約款では「不可抗力によるとき又は正当な理由があるとき」に工期の延期ができるとされています。
また、発注者の承諾がないときには工期の延長は出来ないことになっています。
「不可抗力によるとき」に何が当てはまるのかは詳しく明記されていません。
そのため、天候不良や、発注者の仕様決定が遅れたことでやむを得なく工期を延長しなければならなくなった場合であっても、工期の延長ができないことがあります。
違約金が発生を防ぐためにも、工期の延長は発注者の承諾がない場合でもできるようにしておきましょう。
具体的に何が「不可抗力や正当な理由があるとき」に当てはまるのか、発注者の承諾なしで工期の延長ができるのはどのような場面なのかを記載しておくと良いでしょう。
追加工事代金
追加工事や、当初の工事仕様からの変更があったとき場合でも、標準約款では発注者に追加工事代金を請求しにくくなっています。
請負者の責任ではない原因で追加工事代金が必要になるときには、追加工事代金の請求は発注者の承諾がない場合でもできるようにしておきましょう。
クレーム対応
標準約款では近隣クレームなどがあった場合に、請負者がその対応をしなければならないことになっています。
近隣クレームなどで工事が中断されたときには、工期の延長ができるようにしておくことを定めておきましょう。
また、その際の違約金についても支払う必要がないことを明記しておくと安心です。
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まとめ
工事請負契約書について解説しました。
記載しなければならない項目は細かく分かりにくいですが、万が一トラブルが発生したときにきちんと記載していれば証明となります。
記載漏れがないように注意して確認してください。