工事請負契約約款が令和4年6月21日に改正されたのをご存知でしょうか。
この工事請負契約書上の工事請負契約約款は、発注者と受注者が契約を結ぶ際の様々なルールを指します。
この記事では工事請負契約約款の定義、意義、内容について紹介するとともに、今回の改正のポイントをご案内します。
工事請負契約約款とは
工事請負契約約款とは、工事の実施に際して、発注者と請負者の権利や義務について定めた条項 です。
建設工事では、工事請負契約書を結ぶことが義務づけられていますが、なぜ約款も必要になるのでしょうか。 また、工事請負契約約款にはどのような種類があり、何について定められているのでしょうか。
工事請負契約約款が必要な理由
工事請負契約約款が必要な理由は、契約内容の曖昧さや予測しない事態の発生等を起因として一方が不利益を被ることがないよう双方を守ることにあります。
建設工事を行う際、発注者と請負者は工事請負契約書を交わします。
契約書には、工事の内容を記載するのが一般的です。
例えば、工事名や工事場所、工期、工事を施工しない日、請負代金額、発注者・受注者等です。
しかし、工事内容を定めていても、工事のあり方によってトラブルが生じる可能性があります。
たとえば、追加の工事が発生した場合に、発注者が追加工事分の代金を支払わないケースです。
請負者の負担が一方的にう増える点で問題があります。
そのため、工事の請負契約を結ぶ際は、契約書のなかに約款を記載して、工事の内容だけでなく、工事のあり方に関するルールを明確にした上で、双方が合意を結ぶことが重要です。
国土交通省:建設工事標準請負契約約款について工事請負契約約款の種類
では、工事請負契約約款にはどのような種類があるのでしょうか。
工事請負契約書約款は、中央建設業審議会が標準版を公開しています。
この標準版は、契約書部分と約款部分によって構成されています。
工事請負契約書約款は、用途ごとに4つの種類に分かれています。
ただ、それらは公共工事用(①)、民間工事用(②③④)の2つに大別できます。
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公共工事標準請負契約約款
公共工事に利用します。
ただし、国や地方公共団体だけでなく、ガス事業者、電力事業者、鉄道事業者等、インフラ関係の民間団体も利用が推奨されています。 -
民間建設工事標準請負契約約款(甲)
民間の大規模工事に利用します。 -
民間建設工事標準請負契約約款(乙)
民間の小規模工事に利用します。 -
建設工事標準下請契約約款
下請工事に利用します。
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改正工事請負契約約款のポイント(令和4年6月施行)
工事請負契約約款は、令和4年6月21日に改正・施工されました。
では、今回の改正で何がかわったのでしょうか。
改正のポイントは次の2つです。
- 盛土搬出先の明確化
- 暴力団の排除の徹底
①盛土搬出先の明確化
改正1つ目のポイントは、「盛土の搬出先の明確化」です。
※約款上は、盛土は建設発生土と記載されています。
端的には、仕様書に盛土の搬出先名と所在地を記載し、その旨を契約書に明記しておくことが求めらるようになりました。
この改正は、公共工事や大規模な民間工事において実施が求められています。
「盛土搬出先の明確化」の詳細
「盛土搬出先の明確化」の具体的な内容をまとめると次の5つです。
- 盛土の搬出先の名称や所在地を仕様書に定め、契約書部分に「仕様書の定めにより」と記載すること
- 搬出先を暫定的とする場合は、発注者は、受注者が盛土を適切にしたかを確認すること
- 搬出先は、宅地造成及び特定盛土等規制法に基づく都道府県知事等の許可を受けているか確認すること
- 搬出や処分かかる費用は積算に反映すること
- 搬出や処分の費用に追加負担がある場合は、両者で協議の上、契約変更を行うこと
上記の5点を契約書や約款で満たしているか注意しましょう。
「宅地造成及び特定盛土等規制法」について盛土問題
盛土の搬出先の明確化が追加された背景には、盛土の社会問題があげられます。
盛土とは、建造物を建てやすい地盤をつくるため、傾斜地や低地に人工的な土を埋めること、あるいは盛られた土そのものをいいます。
盛土は資源として再利用が可能なため、新しい現場に搬出します。
再利用先がなく置き場がない場合は、処分が必要です。
近年、盛土が土砂崩れを起こし、近隣に被害を及ぼす事態が起きています。
盛土は地盤より弱いものであるため、コンクリートで補強したり地下水を排水する仕組みを設けたりして対策することが必要です。
しかし、十分に安全な対策がとられていなかった盛土が崩れるいう問題が起きています。
そのため、今回の改正によって、盛土の搬出先の明確化が約款に追加されました。
暴力団の排除の徹底
工事請負契約書約款の改正、2つ目のポイントは、「暴力団の排除の徹底」です。
端的には、発注者が受注者との契約を解除できる要件のうち、受注者と暴力団・団員に関する条項が変更・追加され、暴力団の排除にむけたルールが強化されました。
この改正は、公共工事において実施が求められています。
内容を具体的に見ていきましょう。
「暴力団の排除の徹底」の詳細
これまで発注者は、次の場合等に該当する場合は契約を解除することができました。
※その他にも要件あり。
- 受注者の経営を暴力団・団員が行っているとき
- 受注の役員等が自己・自社・第三者の不正の利益を図ったり損害を加えたりする目的をもって暴力団・団員を利用して”いた”とき
今回の改正では、この②について一部改正がありました。
具体的は、上記②が「受注者の役員等が・・・暴力団・団員を利用して”いる”とき」に変更になりました。
また、新しい要件として下記が追加されました。
- 受注者の役員等が、暴力団や団員であることを知っていながら不当に利用しているとき
このときの受注者の役員等とは、受注者が個人の場合と法人場合では、その意味が異なります。
個人で受注する場合は、受注者個人と経営に実質的に関わる者を指します。
法人で受注する場合は、法人の役員、事務所や支店の代表者、経営に実質的に関わる者を指します。
上記のとおり、公共工事では、暴力団の排除を徹底するため、受注者と暴力団・団員の関わりへの規制が厳しくなっています。
公共工事を行う際は、受注者についてしっかり確認するようにしましょう。
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まとめ
工事請負契約書約款とは、工事の発注者と請負者が工事の実施する際の権利や義務を定めた条項です。
約款は契約書のなかに明記し、工事の内容だけでなく、工事のあり方に関するルールを明確にした上で双方が合意を結ぶことが重要です。
この約款が令和4年6月21日に改正されました。
改正のポイントは、①盛土搬出先の明確化と②暴力団の排除の徹底です。
今後は、盛土の搬出先名や所在地を仕様書に記載し、契約書には「仕様書のとおり」と明記するようにしましょう。
また、公共工事を実施する場合は、受注者が反社会的勢力と関係がないか注意し、関係があることが判明した場合はすみやかに契約を解除しましょう。